2025年新春初稽古

 令和7年の新春初稽古は1月6日、今年も東京武道館にて開催されました。仕事始めと重なり、折しもインフルエンザが大流行中でもあり、例年よりは少し少ない参加者数でしたが、遠くは岩手、関東圏からは埼玉・千葉、東京からのご参加でした。服部洋之師範の司会、栗山一雄師範による大太鼓の音で開会して八段錦・二十四式と進むと松の板の道場に清新な新年の気が満ちました。
 4名の方が、長年元気に稽古を積まれて、皆の励みとなってくださっていることにより高齢者表彰を受け、盛大な拍手でお祝いしましました。

 楊麻紗先生のご講話の一つ目は、これまで62作品が放送されたNHK大河ドラマからでした。麻紗先生が上京した62年前に第一作である『花の生涯』を見て、役者の所作やセリフに感銘を受けたこと。上京して2年後、今から60年前に楊名時先生と中国語に出会って太極拳を始めたのでちょうど60年となること。大河ドラマに出演した俳優の方々が先輩から言い伝えられた言葉は「セリフを覚える必要はない」で、撮影の場の雰囲気や間の取り方にはセリフを超える何かがあるという意味が内包されており、麻紗先生はそこに太極拳に通じるものがあると感じたとのことです。

二つ目は、中国の後漢書方術伝の故事から『一壺天』についてで、この故事の意味は後漢の役人が薬売りの老翁とともに壺(つぼ)の中に入って別天地の楽しみを得たということで、自分の置かれている厳しい状況や場所から別天地に出ることが救いになるということだそうです。

太極拳には競技としての部分の他に哲学・武術の面もありますが、楊名時先生は空間の中で遊ぶということに着眼しておられました。
 先に述べたように、役者はセリフにとらわれることなくセリフの中にも遊び心や緩みを必要としていたように、太極拳もきちんきちんとやるだけではなく、そのなかに遊びや余韻、余裕を入れて舞うことで自分が一壺天に入って別天地にきたような気持ちになれるというのが太極拳の究極の目的ではないだろうか、というのが60年たった今、麻紗先生がみなさまにお伝えしたいことだそうです。

 初稽古の後半は皆で百華拳を舞って道場に一輪の大きな二重花を咲かせ、二十四式をもう一度舞って「別天地」を味わい、後半の八段錦で納めとしました。

 最後に楊砂織師範の『今年も皆で元気に稽古を重ねていきましょう』とのお言葉があり、太極拳を通して心と体を健やかに保って参りたいと願いつつ、道場を後にしました。

文:牧野智子

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