去る5月14日、中国国家京劇院による「覇王別姫」を、志木教室の仲間と観ました。10数年ぶりの京劇で私の好きな演目と同時に、楊名時先生を思いだしました。京劇団の来日は、民音創立50周年と梅蘭芳生誕120周年を記念したもので、会場は満席でした。エピソード(21)でも紹介しましたが、楊名時先生は京劇の好きな演目があると、太極拳の仲間20~30人を連れてそれを観に行きました。5回ぐらいは先生とご一緒しています。当時の会場は国立劇場で、今回は中野サンプラザでした。
楊名時先生は太極拳の稽古の合間に、何度も梅蘭芳の話をされ、京劇の女形のお辞儀の仕草をして皆を喜ばせていました。私は一度も彼の演技は見ていないのですが、楊名時先生の話を聞くうちに、私の胸の中でどんどん梅蘭芳のイメージが膨らんでいきました。梅蘭芳(1894~1961)は祖父・父母とも有名な京劇俳優一家に生まれましたが、子供のころ両親に死に別れ、預けられた叔父も亡くなっています。京劇を志すのですが、余りにも不器用だったため、師匠は才能がないと諦めて逃げ出すほど。しかし、彼は人一倍努力を重ね、中国を代表する名優になりました。
今回の演目「覇王別姫」は紀元前202年、楚の項羽と漢の劉邦の凱歌の戦いを題材にしたものです。四面楚歌の故事や項羽の寵姫虞美人は死後ヒナゲシに化したという説話で有名な悲劇。この演目は梅蘭芳のために作られたもので、今回も当時と同じ歌・演出・衣装での公演でした。そして、現代の京劇では虞美人は女優が演じるのですが、彼女らは梅蘭芳が作り上げた歌と演技を継承しているそうです。
京劇特有の歌唱法ときらびやかな衣装、しなやかな身のこなしの剣舞は、さすが中国国家京劇院!と感嘆しました。また、「京劇を観る時には、役者の指先のこまやかな動きにも注意して観るように」との、楊名時先生の教えが大いに役立った観劇でした。
楊 麻紗