昨年の12月、某民放のテレビのクイズ番組で、日本の近代化に貢献した人物ベスト1は誰か、というものがありました。私も回答者になったつもりで考えてみました。西郷隆盛、大久保利通、福沢諭吉などが思いつきましたが、分かりませんでした。
ベスト1は、渋沢栄一でした。よく考えてみれば当然です。渋沢栄一は周知の通り官僚、実業家としてさまざまな企業の設立や経営に関わり、「日本資本主義の父」といわれている人です。
私はテレビの渋沢栄一の映像を見て、楊名時先生の面白いエピソードを思い出しました。それは渋沢栄一の孫である渋沢正一さんが、楊名時先生から太極拳を習っていた、40数年前のことでした。
当時、楊名時先生は日本武道館で太極拳の指導をされていましたが、その他に渋沢正一さんが東京駅の近くに教室を開いてして下さり、そこで実業家の方も稽古されていました。そして、渋沢正一さんの事務所が旧丸ビルの一角にありましたので、楊名時先生は稽古の前にその事務所をしばしば訪れました。その事務所には、祖父の渋沢栄一さんの写真と楊名時先生のパネルが、並んで壁に掛けられていました。楊名時先生は事務所を訪れるたびに、「僕は渋沢栄一に対して大変申し訳ない」と恐縮するのです。
「どうしてですか?」と尋ねると
「僕の<右踏脚>のパネルが、渋沢栄一の写真の左側に掛けられているので、僕が渋沢栄一を右脚で蹴っているように見えるのだよ。正一さんに写真を左右逆に掛けかえるように何度もお願いするのだが、祖父は寛容な人だから構わない」と。
こうして、渋沢正一事務所のお二人のパネルと写真は、掛けかえられることはありませんでした。渋沢正一さんは初期の楊名時太極拳を支えて下さった大切な方々のお一人でした。改めて感謝致します。