楊名時先生は、中国武術だけではなく、柔道、空手、合気道など日本の武道をとても好みました。特に空手は大好きで、日本空手協会の元主席師範中山正敏先生(故人)のもとで、日本武道の心・技・体を学び、修練を積まれ空手七段を取得されました。
そして、日本武道の良さと小さいときより習った中国の楊家太極拳を融合させた、楊名時太極拳独自のスタイルを創りました。このスタイルは、40年後の今日でも変わりません。すなわち、稽古の前後のお辞儀と立禅をすること、室内の稽古は裸足であること、道着を着ること、音楽をかけないこと、準備運動として「八段錦」をやること等です。
太極拳の実技だけでなく、中休みの時の講義を伺うのも楽しみでした。お話の中心は、古今の人生哲学や太極拳の捉え方です。
「太極拳は武術、哲学、健康法、芸術といった多面体であるが、私は太極拳を «健康法»として捉えたい。何故ならば、人間にとって健康は全ての基本。科学技術が発達し忙しい日本人にこそ、ゆったりとした太極拳が必要なのです」と、語られたのが強く印象に残っています。
「一人の強い宮本武蔵を育てるよりも、万人の健康作りに太極拳を役立たせたい」とのお言葉通り、技の競い合いをせず、心身の調和を求める健康法としての太極拳を貫きました。ゆったりとした語り口、話の間合のねり方は絶妙で、聞く人の心をホッとさせる説法でした。
楊麻紗