(48)温め酒

「帯津三敬塾クリニック2015年カレンダー」より

<林間に酒温めて紅葉焼く>という故事があります。白居易が陝西省の仙遊寺に遊んだ時に詠んだ句で、初冬の風流を述べたものです。また、この句は平家物語の高倉天皇の逸話でも有名で、私は中学時代に知りました。高倉天皇が10歳の頃、庭の築山に紅葉を植え楽しまれていましたが、ある夜嵐が吹き紅葉を散らしてしまった。翌朝、召使たちはその紅葉をかき集めて焚き火をして、酒を温めて飲んだのです。そのことを知った天皇は叱ることなく、詩の心を解っていると逆に褒められたという逸話です。

 さて、楊名時先生は無類のお酒好きであり社交好き。酒席や集まりには必ずといっていいほど出席し、家でも晩酌を欠かしたことがありません。一番好まれたのはビールで、キリンの一番絞り。季節を問わずまずビールで喉を潤し、後は料理に合わせて日本酒であったり中国酒であったりしますが、洋酒やワインはあまり飲みませんでした。中国酒では温めた「紹興酒」を一番多く飲みました。また、帯津良一先生が診療を終えて楊先生宅を訪れた時は、「茅台酒」や「白乾児」または「分酒」などの強い酒を少し飲むこともありました。帯津先生はお酒がとても強く、50度ぐらいあるこれらの酒をオンザロックで飲まれていました。酒を酌み交わしながら、世間話などは一切せず太極拳や気功などの話題に花を咲かせ、愉しそうに過ごします。そして、判で押したように、夜の8時半になると帯津先生はお帰りになりました。お二人とも、節度をもってお酒を心から愉しむ達人でした。

 楊先生が亡くなられて10年。今頃、あの世で楊先生は太極拳の仲間と温め酒を愉しんでいることでしょう。

楊 麻紗

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