(37)後編 いつでも、 どこでも、 だれにでも

先週に続いて、楊名時先生の太極拳の解釈を、ご紹介いたします。

太極拳のもう一つの大きな特徴に、動作を深く長い呼吸に合わせて行なうということがあります。太極拳の呼吸は、蚕の糸のように細く長く静かに吸ったり、吐いたりします。

怒りを放って、わが心の幸福、平穏をねがいながら、気を丹田(へそ下三センチ~九センチ)に集めて、深く静かにお腹をふくらませるつもりで息を吸ってください。そしてこんどは、お腹をへこますようにして、静かに長く息を吐くのです。こうして呼吸をしていると、心がおだやかになり、固くなっていた体もほぐれて軽くなるから不思議です。

呼吸は、小宇宙である人間が、大宇宙のエネルギーを体内に吸収するもので、とくに、ゆったりとした呼吸は、心と体をいきいきさせます。大宇宙の中に満ちている精気・活気といった自然界の生きる力すべてを自分の体の中にとり入れ、体中をめぐらして、静かに吐き出すという気持ちでしていただきたいのです。丹田という場所は、太陽巣といって、人間の生命の中心となるところです。ここに気を集める呼吸法を行なうと、自然に雑念が払われ、心が冷静、沈着になり、精神が充実してきます。生きる喜びが湧き上がってくるのです。

人間の体はこのうえなくすばらしい芸術品です。どんな芸術家もつくることのできない、自然が生み出した傑作です。

しかし、この傑作も、働きすぎれば疲れますし、さらに無理を重ねれば病気になってしまうでしょう。中国では「病治未然、不治既然」つまり「病気にかかる前に予防することが第一で、病気になってからでは治せるものと治せないものがある」といいます。現代のような進んだ医療技術の中でも、予坊は治療に勝るのです。

太極拳はむずかしい動作や激しい動作がありませんから、スポーツの苦手な人や、お年寄り、病後の回復期の人でも無理なく始められまず,そして、なにひとつ道具はいらず、特別な服装も必要ありません。左右四メートルほどのスペースがあれば、どこでもできるのです。 

このように、いつでも、どこでも、だれにでも手軽にできて、生涯つづけられるのが太極拳の魅力です。義務感からするのではなく、楽しみとして続けていただければと思います。そのうちに、なぜか心も体も楽しくなり、食べものがおいしく、仕事もうまく進み、人づきあいもスムーズにいき、一日が楽しく過ごせ、夜、満足して安心して休めるというふうになります。太極拳を楽しみながらつづけているうちに、あなたが願っていた以上のものが生まれてくるのです。太極拳を行うことによって、大宇宙と交流をはかり、自らの生命力を高め、健康と幸福を手にしていただきたいと思います。

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