祝 埼玉県教育長賞

志木教室で太極拳を稽古されている吉野テルさんが、埼玉歌人会第103回短歌大会において、「埼玉県教育長賞」を受賞しました。おめでとうございました。受賞作は

会う度に小さくなり行く老い

背筋伸ばせと我に言ひたり


です。この短歌が生まれた背景について、吉野テルさんが書いてくださいましたので、ご紹介いたします。

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老人ホームに、入所している97歳の気丈な父は、古稀を迎え背が丸くなっていく私に会う度、背筋を伸ばせと、口ぐせのように言うのです。何歳になっても子を思う親の細やかな情愛に感謝し、自然に前掲のような短歌が生まれました。

嬉しさに浸っている矢先に、父はB型インフルエンザに感染し高熱で入院、肺炎を併発し生死の境を、さ迷う日が三日程続きました。運よく乗り越えたものの、私を忘れてしまい見舞いに行っても、「あなたどなた」と聞く始末。大きな声で耳元で話しかけても、表情のない父に悲しさがこみあげてきてしまいました。

肺炎が癒えても、入院中はとうとう父の記憶の回路は戻らないまま、施設に戻ることになりました。施設に戻って来ると、無表情だった父がだんだん笑顔を取り戻し、四日目に私が自分の鼻をさして「誰かわかる」と聞くと、にこにこしながら「テルだろう」と言ったのです。思わずもう一度言ってと聞き返してしまいました。うれしくて、父の手をぎゅっと握りしめた。

その日から父はおぼつかない足取りながら、手押し車を使ったり、自分の足だけで歩いたり、広い施設の廊下を行きつ戻りつしながら、リハビリに励んでいます。

人間関係が希薄になっている昨今、ほのぼのとした親子の絆を感じ、選ぶ側を和ませてくれた作品、との選評をいただきました。

吉野 テル

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