(58)芸は間口を広げないで深めよ

この言葉は、1986(昭和61)年6月に楊名時八段錦・太極拳友好会の第12回総会に、特別ゲストとして中国の李天驥先生をお招きした時、李天驥先生が色紙に書いて楊名時先生に贈られた「芸在精 不在廣」の日本訳です。

 中国では太極拳を二つに分けています。それは「伝統拳」と「制定拳」です。

伝統拳は各流派の伝統を受け継いでいる太極拳で、制定拳は中国体育委員会が普及のために制定した太極拳です。制定拳は中華人民共和国成立後、毛沢東の人民の体位体力の向上をはかる呼びかけにより、水泳、登山、テニス、太極拳などが推奨されました。

そして、楊家太極拳をはじめ各流派の人たちが集まり検討を重ね、普及のため楊家太極拳の型を中心にして、簡素化された太極拳を作りました。それが「簡化太極拳24式」です。

この太極拳は、108もある太極拳の型を24の型に整理したもので、誰にでも覚えやすく、時間も短くなりました。1956(昭和31)年のことでした。

 この簡化太極拳制定の責任者が、李先生であり、普及用のポスターで演じているのも李先生でした。

 楊先生は、中国の友人から送ってもらったこのポスターを武道館の壁に貼って、私たちに太極拳を指導しておりました。ですから、私は太極拳入門時から李先生を知っておりましたが、実際にお目にかかったのは2度です。講演もお聞きしました。優しく、おだやかな印象が残っております。

 太極拳には24式のほかにいくつかありますが、楊先生は一貫して24式と八段錦だけを指導されました。健康法としての太極拳は<24式で十分>との確信があったからだと思います。健康は知識では得られません。少なくて良いものを、コツコツと心をこめてやり続けることによって、血となり肉となるものです。そして、太極拳を健康法から芸術まで昇華させること、これが楊先生の希いであり訓えでした。

     楊 麻紗記

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